適用対象となる体質・症状

女性の月経は、子宮の内壁を覆っている膜(子宮内膜)が剥はがれ落ちて、血液(経血)と共に排出される生理現象で、一生のうち妊娠可能な期間に、妊娠期間中などを除き、ほぼ毎月、周期的に起こります。
月経周期は、個人差があり、約21日〜40日と幅があります。
月経は種々のホルモンの複雑な相互作用によって調節されていて、視床下部や下垂体で産生されるホルモンと、卵巣で産生される女性ホルモンが月経周期に関与します。
加齢とともに卵巣からの女性ホルモンの分泌が減少していき、やがて月経が停止して、妊娠可能な期間が終了することを閉経と言います。

閉経の前後には、更年期(閉経周辺期)と呼ばれる移行期があり、体内の女性ホルモンの量が大きく変動することがあります。
そのため更年期においては、月経周期が不規則になるほか、不定愁訴として血の道症(臓器や組織の形態的異常がなく、抑うつや寝つきが悪くなる、神経質、集中力の低下などの精神神経症状が現れる病態)の症状に加え、冷え症、腰痛、頭痛、頭重、ほてり、のぼせ、立ちくらみなどの症状が起こることがあり、こうした症候群を更年期障害といいます。

血の道症は月経、妊娠、分娩、産褥(分娩後、母体が通常の身体状態に回復するまでの期間)、更年期などの生理現象や、流産、人工妊娠中絶、避妊手術などを原因とする異常生理によって起こるとされ、範囲が更年期障害よりも広く、年齢的に必ずしも更年期に限りません。
特に、月経の約10〜3日前に現れ、月経開始と共に消失する「腹部膨満感、頭痛、乳房痛」などの身体症状や感情の不安定、抑うつなどの精神症状を主体とするものを、月経前症候群といいます。
婦人薬は、月経及び月経周期に伴って起こる症状を中心として、女性に現れる特有な諸症状(血行不順、自律神経系の働きの乱れ、生理機能障害等の全身的な不快症状)の緩和と、保健を主な目的とする医薬品であり、その効能・効果として、血の道症、更年期障害、月経異常及びそれらに伴う冷え症、月経痛、腰痛、頭痛、のぼせ、肩こり、めまい、動悸、息切れ、手足のしびれ、こしけ(おりもの)、血色不良、便秘、むくみなどに用いられます。
代表的な配合成分と主な副作用
女性ホルモン成分
人工的に合成された女性ホルモンの一種である
- エチニルエストラジオール
- エストラジオール
を補充するもので、膣粘膜又は外陰部に適用されるものがあります。
これらの成分は適用部位から吸収されて循環血液中に移行します。
妊娠中の女性ホルモン成分の摂取によって胎児の先天性異常の発生が報告されており、妊婦又は妊娠していると思われる女性では使用を避ける必要があります。

吸収された成分の一部が乳汁中に移行することが考えられ、母乳を与える女性では使用を避けるべきです。
長期連用により血栓症を生じるおそれがあり、また、乳癌や脳卒中などの発生確率が高まる可能性もあるため、継続して使用する場合には、医療機関を受診するよう促すべきです。
生薬成分

サフラン・コウブシ
鎮静、鎮痛のほか、女性の滞っている月経を促す作用を期待して
- サフラン(アヤメ科の サフランの柱頭を基原とする生薬)
- コウブシ(カヤツリグサ科のハマスゲの根茎を基原とする生薬)
などが配合されている場合があります。
日本薬局方収載のサフランを煎じて服用する製品は、冷え性及び血色不良に用いられます。
センキュウ、トウキ、ジオウ
- センキュウ(セリ科のセンキュウの根茎を通例、湯通ししたものを基原とする生薬)
- トウキ(セリ科のトウキ又はホッカイトウキの根を、通例、湯通ししたものを基原とする生薬)
- ジオウ(ゴマノハグサ科のアカヤジオウなどの根又はそれを蒸したものを基原とする生薬)
は、血行を改善し、血色不良や冷えの症状を緩和するほか、強壮、鎮静、鎮痛などの作用を期待して用いられます。
その他の生薬成分
鎮痛・鎮痙の作用を期待して、シャクヤク・ボタンピなどが配合されている場合があります。
鎮静作用を期待して、サンソウニン・カノコソウが配合されている場合があります。
抗炎症作用を期待して、カンゾウが配合されている場合があります。
胃腸症状に対する効果を期待して、オウレン・ソウジュツ・ビャクジュツ・ダイオウなどが配合されている場合があります。
特に、ダイオウを含有する医薬品については、妊婦又は妊娠していると思われる女性、授乳婦における使用に関して留意される必要があります。

このほか、利尿作用を期待して、モクツウ・ブクリョウなどが配合されている場合があります。
ビタミン成分

疲労時に消耗しがちなビタミンの補給を目的として
- ビタミンB1(チアミン硝化物、チアミン塩化物塩酸塩など)
- ビタミンB2(リボフラビン、リボフラビンリン酸エステルナトリウ ムなど)
- ビタミンB6(ピリドキシン塩酸塩など)
- ビタミンB12(シアノコバラミン)
- ビタミンC(アスコルビン酸など)
が配合されている場合があります。
また、血行を促進する作用を目的として、ビタミンE(トコフェロールコハク酸エステルなど)が配合されている場合があります。
その他
滋養強壮作用を目的として、「アミノエチルスルホン酸(タウリン)、グルクロノラクトン、ニンジン」などが配合されている場合があります。
漢方処方製剤

女性の月経や更年期障害に伴う諸症状の緩和に用いられる主な漢方処方製剤として
- 温経湯
- 温清飲
- 加味逍遙散
- 桂枝茯苓丸
- 五積散
- 柴胡桂枝乾姜湯
- 四物湯
- 桃核承気湯
- 当帰芍薬散
などがあります。
これらのうち、温経湯、加味逍遙散、五積散、柴胡桂枝乾姜湯、桃核承気湯は構成生薬としてカンゾウを含みます。
また、(感冒に用いられる場合の五積散、便秘に用いられる場合の桃核承気湯を除き)いずれも比較的長期間(一か月くらい)服用されることがあります。
温経湯

体力中等度以下で、手足がほてり、唇が乾くものの月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、不眠、神経症、湿疹、皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ(手の湿疹・ 皮膚炎)に適すとされますが、胃腸の弱い人では、不向きとされます。
温清飲

体力中等度で皮膚はカサカサして色つやが悪く、のぼせるものの月経不順、月経困難、血の道症、更年期障害、神経症、湿疹・皮膚炎に適すとされますが、胃腸が弱く下痢しやすい人 では胃部不快感、下痢などの副作用が現れやすいなど、不向きとされます。
まれに重篤な副作用として、肝機能障害を生じることが知られています。
加味逍遙散

体力中等度以下でのぼせ感があり、肩がこり、疲れやすく、精神不安やいらだちなどの精神神経症状、ときに便秘の傾向のあるものの冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症、不眠症に適すとされるが、胃腸の弱い人では悪心(吐き気)、嘔吐、胃部不快感、下痢などの副作用が現れやすい等、不向きとされます。
まれに重篤な副作用として、肝機能障害、腸間膜静脈硬化症を生じることが知られている。
桂枝茯苓丸

比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまい、のぼせて手足の冷えなどを訴えるものの、月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、血の道症、肩こり、めまい、頭重、打ち身(打撲痛)、しもやけ、しみ、湿疹・皮膚炎、にきびに適すとされるが、体の虚弱な人 (体力の衰えている人、体の弱い人)では不向きとされます。
まれに重篤な副作用として、肝機能障害を生じることが知られています。
五積散

体力中等度又はやや虚弱で冷えがあるものの胃腸炎、腰痛、神経痛、関節痛、月経痛、頭痛、更年期障害、感冒に適すとされますが、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸の弱い人、発汗傾向の著しい人では、不向きとされています。
構成生薬としてマオウを含みます。
柴胡桂枝乾姜湯

体力中等度以下で、冷え症、貧血気味、神経過敏で、動悸、息切れ、ときに寝汗、頭部の発汗、口の渇きがあるものの更年期障害、血の道症、不眠症、神経症、動悸、息切れ、かぜの後期の症状、気管支炎に適すとされます。
まれに重篤な副作用として、間質性肺炎、肝機能障害を生じることが知られています。
四物湯

体力虚弱で、冷え症で皮膚が乾燥、色つやの悪い体質で胃腸障害のないものの月経不順、 月経異常、更年期障害、血の道症、冷え症、しもやけ、しみ、貧血、産後あるいは流産後の 疲労回復に適すとされますが、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸の弱い人、下痢しやすい人では、胃部不快感、腹痛、下痢等の副作用が現れやすいなど不向きとされます。
桃核承気湯

体力中等度以上で、のぼせて、便秘がちなものの月経不順、月経困難症、月経痛、月経時や産後の精神不安、腰痛、便秘、高血圧の随伴症状(頭痛、めまい、肩こり)痔疾、打撲症に適すとされるが、体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)、胃腸が弱く下痢しや すい人では、激しい腹痛を伴う下痢などの副作用が現れやすいなど不向きとされます。
構成生薬としてダイオウを含みます。
ダイオウを含有する医薬品については、妊婦又は妊娠していると思われる女性、授乳婦における使用に関して留意される必要があります。
当帰芍薬散

体力虚弱で、冷え症で貧血の傾向があり、疲労しやすく、ときに下腹部痛、頭重、めまい、 肩こり、耳鳴り、動悸などを訴えるものの月経不順、月経異常、月経痛、更年期障害、産前産後あるいは流産による障害(貧血、疲労倦怠、めまい、むくみ)、めまい・立ちくらみ、頭 重、肩こり、腰痛、足腰の冷え、しもやけ、むくみ、しみ、耳鳴りに適すとされますが、胃腸の弱い人では、胃部不快感などの副作用が現れやすいなど不向きとされます。
相互作用
内服で用いられる婦人薬では、通常、複数の生薬成分が配合されている場合が多く、他の婦人薬、生薬成分を含有する医薬品(鎮静薬、胃腸薬、内用痔疾用薬、滋養強壮保健薬、漢方処方製剤)などが併用された場合、同じ生薬成分又は同種の作用を示す生薬成分が重複摂取となり、効き目が強すぎたり、副作用が起こりやすくなるおそれがあります。
例えば、「痔の薬」と「更年期障害の薬」などは影響し合わないとの「誤った認識」がなされている人も多いので、登録販売者において注意を促していくことが重要です。

何らかの疾患(婦人病に限らない)のため医師の治療を受けている場合には、婦人薬の使用が治療中の疾患に悪影響を及ぼすことがあり、また、動悸や息切れ、めまい、のぼせなどの症状が、治療中の疾患に起因する可能性や、処方された薬剤の副作用である可能性も考えられます。
医師の治療を受けている人では、婦人薬を使用する前に、その適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきです。
受診勧奨

内服で用いられる婦人薬は、比較的作用が穏やかで、ある程度長期間使用することによって効果が得られるとされています。
効果の現れ方は、症状や使用する人の体質、体の状態などにより異なりますが、効果がみられないのに漫然と使用を継続することは適当ではありません。
1ヶ月位使用して症状の改善がみられず、日常生活に支障を来すようであれば、医療機関を受診するなどの対応が必要です。
月経痛について、年月の経過に伴って次第に増悪していくような場合や大量の出血を伴う場合には、子宮内膜症などの病気の可能性があります。

月経不順については、卵巣機能不全による場合もありますが、過度のストレスや、不適切なダイエットなどによる栄養摂取の偏りによって起こることもあり、月経前症候群を悪化させる要因になることもあります。
おりものは女性の生殖器からの分泌物で、卵巣が働いている間は、ほとんどの女性にみられます。
おりものの量が急に増えたり、膿のようなおりもの、血液が混じったおりものが生じたような場合には、膣や子宮に炎症や感染症を起こしている可能性があります。
特に、不正出血(月経以外の不規則な出血)がある場合には、すみやかに医療機関を受診して専門医の診療を受けるなどの対応が必要です。
頭痛やうつ状態、動悸・息切れなどの更年期障害の不定愁訴とされる症状の背景に、原因となる病気が存在する可能性もあります。

うつ状態については、うつ病などが背景に隠れている場合もあります。
そして、動悸・息切れが心疾患による症状のおそれもあります。
のぼせやほてりなどの症状については、高血圧や心臓、甲状腺の病気でも起こることがあります。
更年期は様々な病気が起こりやすい年齢でもあり、そのような原因が見いだされた場合には、その治療が優先される必要があります。
医薬品の販売などに従事する専門家においては、購入者等に対して、一般用医薬品の使用による対処は一時的なものに止め、症状が継続するようであれば医療機関を受診するよう促していくことが重要です。

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