動悸・息切れなどを生じる原因と強心薬の働き
動悸・息切れ・気つけ

心臓は、血液を全身に循環させるポンプの働きを担っています。
通常、自律神経系によって無意識のうちに調整されています。
激しい運動をしたり、興奮した時などの動悸や息切れは健康状態でも現れます。
体の不調による動悸・息切れは日常生活の身体活動や平静にしているときに起こるもので、心臓の働きが低下して十分な血液を送り出せなくなり、脈拍数を増やすことによって、その不足を補おうとして動悸(心臓の拍動が強く若しくは、速くなる。又は脈拍が乱れ、それが不快に感じられる)が起こります。

また、心臓から十分な血液が送り出されないと体の各部への酸素の供給が低下するため、呼吸運動によって取り込む空気の量を増やすことで、それを補おうとして、息切れ(息をすると胸苦しさや不快感があり、意識的な呼吸運動を必要とする)が起こります。
これらは睡眠不足や疲労による心臓の働きの低下のほか、不安やストレス等の精神的な要因、また、女性では貧血や更年期に生じるホルモンバランスの乱れなどによっても起こることがあります。
気つけは、心臓の働きの低下による一時的なめまいや立ちくらみ症状に対して、意識をはっきりさせたり、活力を回復させる効果のことです。
強心薬の働き
強心薬は、疲労やストレスなどによる軽度の心臓の働きの乱れについて、心臓の働きを整えて、動悸や息切れなどの症状の改善を目的とする医薬品です。
心筋に作用して、その収縮力を高めるとされる成分(強心成分)を主体として配合されます。
代表的な配合成分と主な副作用
強心成分

心筋に直接刺激を与え、その収縮力を高める作用(強心作用)を期待して、センソ、ゴオ ウ、ジャコウ、ロクジョウ等の生薬成分が用いられます。
センソ
ヒキガエル科のアジアヒキガエルなどの耳腺の分泌物を集めたものを基原とする生薬で、微量で強い強心作用を示します。
皮膚や粘膜に触れると局所麻酔作用を示し、センソが配合され丸薬、錠剤などの内服固形製剤は、口中で噛み砕くと舌などが麻痺することがあるため、噛かずに服用することとされています。
有効域が比較的狭い成分であり、1日用量中センソ5mgを超えて含有する医薬品は劇薬に指定されています。
一般用医薬品では、1 日用量が5mg以下となるよう用法・用量が定められており、それに従って適正に使用される必要があります。
なお、通常用量においても、悪心(吐き気)、嘔吐の副作用が現れることがあります。
ジャコウ・ゴオウ・ロクジョウ
ジャコウは、シカ科のジャコウジカの雄の麝香腺分泌物を基原とする生薬で、強心作用のほか、呼吸中枢を刺激して呼吸機能を高めたり、意識をはっきりさせる作用があるとされています。
ゴオウ(牛黄)は、ウシ科の牛の胆嚢中に生じた結石を基原とする生薬で、強心作用のほか、 末梢血管の拡張による血圧低下や鎮静作用などの作用があります。
ロクジョウは、シカ科のCervus nippon Temminck、Cervus elaphus Linné、Cervus canadensis Erxleben 又はその他同属動物の雄鹿の角化していない幼角を基原とする生薬で、強心作用の他、強壮、血行促進などの作用があります。
これらは強心薬のほか、小児五疳薬、滋養強壮保健薬などにも配合されている場合があります。
強心成分以外の配合成分
強心成分の働きを助ける効果を期待して、一部の強心薬では、小児五疳薬や胃腸薬、 滋養強壮保健薬などの効能・効果を併せ持つものもあり、鎮静、強壮などの作用を目的とする生薬成分を組み合わせて配合されている場合が多くあります。
リュウノウ(竜脳)
中枢神経系の刺激作用による気つけの効果を期待して用いられます。
リュウノウ中に存在する主要な物質としてボルネオールが配合されている場合もあります。
シンジュ(真珠)
ウグイスガイ科のアコヤガイ、シンジュガイ又はクロチョウガイなどの外套膜組成中に病的に形成された顆粒状物質を基原とする生薬で、鎮静作用等を期待して用いられます。
その他
レイヨウカク、ジンコウ、動物胆(ユウタンを含む)サフラン、ニンジン、インヨウカクなどが配合されている場合があります。
※)レイヨウカクは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約による規制により、今後は本邦におい て入手が困難となることが予想されます。
そのため、レイヨウカクを含有する強心薬のうち、センソ又はゴオウを主体とす る一般用医薬品(いわゆる「六神丸」又は「感応丸」)においては、スイギュウカクへ代替する医薬品もあります。
商品例「ユンケル心臓薬」

救心

救心の成分
- 蟾酥(センソ) (5mg)心筋の収縮力を高めて血液循環をよくし、余分な水分を排泄して心臓の働きを助けます。また、呼吸機能を高めて全身の酸素不足を改善します。
- 牛黄(ゴオウ) (4mg)末梢循環を改善し、心臓の働きを助けます。
- 鹿茸末(ロクジョウマツ) (5mg)強壮作用により気力を高めます。
- 人参(ニンジン) (25mg)
- 羚羊角末(レイヨウカクマツ) (6mg)鎮静作用によりストレスなどからくる神経の緊張を和らげます。
- 真珠(シンジュ) (7.5mg)
- 沈香(ジンコウ) (3mg)
- 龍脳(リュウノウ) (2.7mg)気力や意識の減退を回復させます。
- 動物胆(ドウブツタン) (8mg)消化器の働きをよくし、他の成分の吸収を助けます。
漢方処方製剤
苓桂朮甘湯

体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏に適すとされています。
強心作用が期待される生薬は含まれず、主に利尿作用により、水毒(漢方の考え方で、体の水分が停滞したり偏在して、その循環が悪いことを意味する)の排出を促すことを主眼としています。
構成生薬としてカンゾウを含みます。
なお、高血圧、心臓病、腎臓病の診断を受けた人では、カンゾウ中のグリチルリチン酸による偽アルドステロン症を生じやすく、また、動悸や息切れの症状は、それら基礎疾患によっても起こることがあります。
登録販売者においては、本剤を使用しようとする人における状況の把握に努めることが重要です。
相互作用
心臓病に限らず、何らかの疾患のため医師の治療を受けている場合には、強心薬の使用が治療中の疾患に悪影響を生じることがあり、また、動悸や息切れの症状が、治療中の疾患に起因する可能性や、処方された薬剤の副作用である可能性も考えられます。
医師の治療を受けている人では、強心薬を使用する前に、その適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきです。
受診勧奨

強心薬については一般に、5〜6日間使用して症状の改善がみられない場合には、心臓以外の要因、例えば、呼吸器疾患、貧血、高血圧症、甲状腺機能の異常等のほか、精神神経系の疾患も考えられます。
登録販売者においては、強心薬を使用した人の状況に応じて、適宜、医療機関の受診を勧奨することが重要です。
激しい運動をしていないにもかかわらず突発的に動悸や息切れが起こり、意識が薄れてきたり、脈が十分触れなくなったり、胸部の痛み又は冷や汗を伴うような場合には、早めに医師の診療を受けるなどの対応が必要です。
心臓の働きの低下が比較的軽微であれば、心臓に無理を生じない程度の軽い運動と休息の繰り返しを日常生活に積極的に取り入れることにより、心筋が鍛えられ、また、手足の筋肉の動きによって血行が促進されて心臓の働きを助けることにつながります。
強心薬の使用によって症状の緩和を図るだけでなく、こうした生活習慣の改善によって、動悸や息切れを起こしにくい体質づくりが図られることも重要です。
一般用医薬品にも副作用として、動悸が現れることがありますが、一般の生活者においては、それが副作用による症状と認識されずに、強心薬による対処を図ろうとすることも考えられます。
登録販売者においては、強心薬を使用しようとする人における状況の把握に努めることが重要です。

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