薬が働く仕組み
医薬品の作用には、有効成分が体内に吸収されてから、全身を巡って薬効をもたらす全身作用と、特定の狭い部位で効き目を発揮する局所作用の2つがあります。
☝️局所=限られた部分や場所
内服した医薬品が全身作用を現わすまでには
- 小腸からの吸収
- 肝臓での代謝
- 作用する部位への分布
という過程を経るため、ある程度の時間が掛かります。
一方で、塗り薬や目薬、かゆみ止め、湿布薬などの局所作用を表す医薬品の反応は比較的速やかに現れます。
内服薬は全身作用を示すものが多いですが、膨潤性下剤や生菌製剤などのように、有効成分が消化管内(大腸など)で作用するものもあり、その場合には局所作用と言えます。

また、胃腸に効く薬でも有効成分が血液中に入ってから効果を発揮する場合は、全身作用の一部になります。
かゆみ止めや湿布薬、キズ薬などの外用薬は、ほとんどの場合、筋肉痛や痒み、怪我などのように局所的な効果を目的としていることが多いといえます。
また、坐剤(座薬)や経皮吸収製剤などでは、適用部位から吸収された有効成分が、循環血液中に移行して全身作用を示すことを目的として設計されたものもあります。
副作用にも、全身作用によるものと局所作用によるものとがあります。
局所作用を目的とする医薬品によって全身性の副作用が生じたり、逆に、全身作用を目的とする医薬品で局所的な副作用が生じることもあります。
医薬品が体内で引き起こす薬効と副作用を理解するには、使用された医薬品が体内でどのように働いて、どのように体内から消えていくのか(薬物動体)に関する知識が必要不可欠です。
薬の生体内運命
【1】有効成分の吸収
全身作用を目的とする医薬品は、その有効成分が小腸などの消化管から吸収されて、循環血液中に移行することが必要不可欠です。
なお、循環血液中に移行せずに薬効を発揮する医薬品でも、その成分が体内から消失する過程で、吸収されて循環血液中に移行する場合があります。
局所作用を目的とする医薬品の場合は、目的とする局所に有効成分が浸透して作用するものがほとんどです。
【2】消化管吸収
内服薬のほとんどは、その有効成分が消化管から吸収されて循環血液中に移ってから全身作用を現します。
錠剤、カプセル剤などの固形剤の場合、血液中に吸収される前に、胃などの消化管内で崩壊して、有効成分が溶け出す必要があります。
腸溶剤のように胃ではなく、腸で有効成分が溶け出す薬もあります。

例えば、便秘薬に使用されるビサコジルは、刺激性が非常に高く、そのまま服用すると胃を刺激してしまうため、胃では溶けずに腸で溶ける「腸溶錠」となっています。
内服薬の中には、服用後の作用を持続させるため、有効成分がゆっくりと溶出するように作られているもの(徐放性製剤)もあります。
有効成分は主に小腸で吸収されます。
一般に、消化管からの吸収は、濃度の高い方から低い方へ受動的に自然と拡がっていく現象です。
☝️濃いものと薄いものが出会うと、濃いものから薄いものを濃くするような感じになって、濃いものがどんどん薄まり、そして均一になろうとしますが、これを受動的と言います。
例えば、水の上に墨汁をたらした時に墨汁の墨の部分が表面にサーッと広がるような感じですね。
有効成分を吸収する量や速さは、消化管の中にあるものや他の医薬品の作用によって影響を受けます。
また、有効成分によっては消化管の粘膜に障害を起こすものもあるので、食事の時間と服用時期との関係はそれぞれの医薬品の用法に定められています。
内服以外の用法における粘膜からの吸収
内服以外の用法で使用される医薬品には、適用部位から有効成分を吸収させて、全身作用を発揮させるものがあります。
その代表的な例が坐剤(座薬)です。

坐剤は肛門から医薬品を挿入して、直腸内で溶かすことで、薄い直腸内壁の粘膜から有効成分を吸収させます。
直腸の粘膜下には静脈が豊富に通っているので、有効成分は容易に循環血液中に入り、内服の場合よりも全身作用が速やかに現れます。
また、口に含むため内服薬と混同されやすいのが、抗狭心症薬のニトログリセリン(舌下錠、スプレー)や禁煙補助薬のニコチン(咀嚼剤)です。
これらの薬は有効成分が口腔粘膜から吸収されて全身作用を現すものもあります。
商品例・ニコレット

【用法】タバコを吸いたいと思ったとき、1回1個をゆっくりと間をおきながら、30~60分間かけてかむ。
これらの部位を通っている静脈血は、肝臓を経由せずに心臓に到るので、吸収されて循環血液中に入った成分は、初めに肝臓で代謝を受けることなく全身に分布します。
ただ、医薬品によっては、適用部位の粘膜に刺激などの局所的な副作用を生じることがあります。
したがって、そのような副作用を回避するため、また、その有効成分の急激な吸収による全身性の副作用を避けるために、粘膜に障害があるときは使用を避けるべきです。
点鼻薬

鼻腔の粘膜に直接、医薬品を使用する場合も、その成分は循環血液中に入りますが、一般用医薬品には全身作用を目的とした点鼻薬はなく、いずれの医薬品も、鼻腔粘膜への局所作用を目的として使用されています。
しかし、鼻腔粘膜の下には毛細血管が豊富なため、点鼻薬の成分は循環血液中に移行しやすく、また、坐剤などの場合と同様に、初めに肝臓で代謝を受けることなく全身に分布するため、全身性の副作用を生じることがあります。
点眼薬(目薬)
眼の粘膜に使用する点眼薬は、鼻涙管を通って鼻粘膜から吸収されることがあります。

従っ て、眼以外の部位に到達して副作用を起こすことがあるため、場合によっては点眼する際には目頭の鼻涙管の部分を押さえ、有効成分が鼻に流れるのを防ぐ必要があります。

含嗽薬(うがい薬)

咽頭の粘膜に適用する含嗽薬(うがい薬)の場合は、その多くが唾液や粘液によって食道へ流れてしまうため、咽頭粘膜からの吸収が原因で全身的な副作用が起こることは少ないです。
ただし、アレルギー反応は微量の抗原でも起こるので、点眼薬や含嗽薬(うがい薬)などでもアナフィラキシーなどのアレルギー性副作用を生じることがあります。
皮膚吸収(塗り薬・貼り薬など)

皮膚に使用する医薬品(塗り薬、貼り薬など)は、使用する部位に対する局所的な効果を目的とするものがほとんどです。
オロナインなどの殺菌消毒薬などのように、有効成分が皮膚の表面で効果を発揮するもありますが、かゆみ止めなどは、有効成分が皮膚から浸透して効果を発揮します。
その場合、浸透する量は皮膚の状態や、傷の有無、その程度などによって影響を受けます。
例えば、かぶれていたり、かき壊して傷がある場合は浸透しにくいと言えます。
通常は、皮膚表面から循環血液中へ移行する量は少ないですが、血液中に移行した有効成分は、肝臓で代謝を受ける前に血流に乗って全身に分布するため、適用部位の面積や使用量、使用回数、その頻度などによっては、全身作用が現れることがあります。
また、アレルギー性の副作用は適用部位以外にも現れることがあります。
薬の代謝と排泄
代謝とは物質が体内で化学的に変化することです。
その結果、作用を失ったり(不活性化)、作用が現れたり(代謝的活性化)、あるいは体外へ排泄されやすい水溶性の物質に変化します。
排泄とは、代謝によって生じた物質(代謝物)が尿などで体外へ排出されることであり、有効成分は未変化体のままで、あるいは代謝物として、腎臓から尿中へ、肝臓から胆汁中へ、又は肺から呼気中へ排出されます。
体外への排出経路としては、その他に汗中や母乳中などがありますが、体内から消失する経路としては珍しいでしょう。
ただし、有効成分の母乳中への移行は、乳児に副作用が現れる可能性が高いので、注意が必要です。
体に吸収されてから循環血液中に入るまでの間に起こる代謝
薬を飲んだ後、消化管(主に小腸)で吸収された有効成分は血液中へ移行します。
その成分は全身循環に入る前に門脈という血管を経由して肝臓を通過するため、吸収された薬の有効成分も血液中へ移行して、体の中を何周も周っていくうちに徐々に代謝を受けて、分解されたり、体内の他の物質が結合するなどして構造が変化します。
薬の有効成分は、まず肝臓に存在する酵素の働きで代謝を受けます。
つまり、体の中を循環する量は、薬を飲んでから消化管(主に小腸)で吸収された量よりも、肝臓で代謝を受けた分だけ少なくなります。
(これを肝初回通過効果 (first-pass effect) といいます)
ですので、肝機能が低下した人は代謝する能力が低いため、正常な人に比べて体の中を循環する有効成分の量が多くなり、効き目が過剰に現れたり、副作用を生じやすくなったりします。
なお、薬物代謝酵素の遺伝子型には個人差があります。
循環血液中に移行した有効成分の代謝と排泄
循環血液中に移行した有効成分は、主に肝臓で代謝を受けます。
多くの有効成分は血液中で血漿タンパク質と結合して複合体を形成しています。
複合体を形成している有効成分の分子は薬物代謝酵素の作用で代謝されず、またトランスポーターによって輸送されることもありません。
したがって、代謝や分布が制限されるため、血中濃度の低下は徐々に起こります。
循環血液中に存在する有効成分の多くは、未変化体又は代謝物の形で腎臓から尿中に排泄されます。
ですので、腎機能が低低下した人では、正常の人よりも有効成分の尿中への排泄が遅れて、血中濃度が下がりにくくなっています。
そのため、医薬品の効き目が過剰に現れたり、副作用を生じやすくなったりします。
また、複合体は腎臓で濾過されないため、有効成分が長く血液中に留まることになって、作用が持続する原因となります。
薬の体内での働き
循環血液中に移行した有効成分は、血流によって全身の組織・器官へ運ばれて作用しますが、多くの場合は、標的となる細胞に存在する受容体、酵素、トランスポーターなどのタンパク質と結合して、その機能を変化させることで薬効や副作用を現します。
そのため、医薬品が効果を発揮するためには、有効成分がその作用の対象である器官や組織の細胞外液中あるいは細胞内液(細胞質)中に、一定以上の濃度で分布する必要があります。
これらの濃度に強く関連するのが血中濃度です。
医薬品が摂取されると、その成分が吸収されるにつれて血中濃度は上昇し、ある最小有効濃度を超えた時に薬効が現れます。
血中濃度はある時点で最高血中濃度(ピーク)に達して、その後は低下していきます。

それは、代謝と排泄のスピードが吸収と分布の上回るためである。やがて、血中濃度が最小有効濃度を下回ると、薬効は消失する
一度に大量の医薬品を摂取したり、十分な間隔をあけずに追加摂取したりして血中濃度を高くしても、ある濃度以上になるとより強い薬効は得られなくなり、薬効は頭打ちになります。
その一方、有害な作用(副作用や毒性)は現れやすくなります。
全身作用を目的とする医薬品の多くは、使用後の一定期間、その有効成分の血中濃度が、最小有効濃度と、毒性が現れる濃度域(危険域又は中毒域)の間の範囲(有効域または治療域)に維持されるように法律によって使用量と使用間隔が定められています。
剤形ごとの違い・適切な使用方法
医薬品の有効成分の現れ方は様々で、それぞれに特徴があります。
医薬品がどのような形状で使用されるかは、その医薬品の使用目的と有効成分の性質に合わせて決められています。
そうした医薬品の形状のことを剤形といいます。
有効成分の剤形としては
- 錠剤(内服)
- 口腔用錠剤
- カプセル剤
- 散剤・顆粒剤
- 経口液剤
- シロップ剤
等があります。
これらの剤形の違いは
- 使用する人の利便性を高める
- 有効成分が溶け出す部位を限定する
- 副作用を軽減する
などの目的があります。
そのため、医薬品を使用する人の年齢や身体の状態の違いに応じて、最適な剤形が選択されるように、それぞれの特徴を理解する必要があります。
有効成分を患部(局所)に直接使用する剤形としては、
- 軟膏剤
- クリーム剤
- 外用液剤
- 貼付剤
- スプレー剤
などがあります。
これらの多くは、有効成分が同じであっても、配合されている添加剤などに違いがあり、剤形によっては症状を悪化させてしまう場合もあるため、患部の状態に応じて適切な剤形が選択されなければならなりません。
錠剤(内服)
錠剤は、内服用医薬品の剤形として最も広く用いられています。
一定の形状に成型された固形製剤であるため、飛散させずに服用できる点や、有効成分の苦味や刺激性を口中で感じることなく服用できる点が主な特徴です。
一方、一定の大きさがあるため、高齢者や乳幼児などの場合、飲み込みにくいことがあります。
錠剤(内服)を服用するときは、適切な量の水(又はぬるま湯)とともに飲み込まなければなりません。
もしも、水が少なかったり、水なしで服用したりすると、錠剤が喉や食道に張り付いてしまうことがあり、薬効が現れないだけではなく、喉や食道の粘膜を傷めるおそれがあります。
錠剤(内服)は、胃や腸で崩壊し、有効成分が溶け出すことが、効果を発揮するために必要不可欠です。
また、例外的な場合を除いては、口中で噛み砕いてはいけません。
特に腸内で溶けることを目的として錠剤表面をコーティングしているもの(腸溶剤)の場合などは気をつける必要があります。
口腔用錠剤

口腔内崩壊錠は、ラムネのように口の中の唾液で速やかに溶ける工夫がなされているため、水なしで服用することができます。
固形物を飲み込むことが困難な高齢者や乳幼児、水分摂取が制限されている場合でも、 口の中で溶かした後に、唾液と一緒に容易に飲み込むことができます。
チュアブル錠

チュアブルとは「噛むことが出来る」という意味で、口の中で舐めたり噛み砕いたりして服用する剤形であり、水なしでも服用できます。
トローチ・ドロップ
薬効を期待する部位が口の中や喉であるものが多く、飲み込まずに口の中で舐なめて、徐々に溶かして使用します。
散剤・顆粒剤

錠剤のように固形状に固めず、粉末状にしたものを散剤、小さな粒状にしたものを顆粒剤といいます。
錠剤を飲み込むことが困難な人にとっては錠剤よりも服用しやすいですが、口の中に広がって歯の間に挟まったり、苦味や渋味を強く感じる場合があります。
散剤などを服用するときは、飛び散らないように、あらかじめ少量の水(又ははぬるま湯)を口に含んだ上で服用したり、何回かに分けて少しずつ服用するなどすると良いでしょう。
口の中に散剤などが残った時には、さらに水などを口に含み、口の中をすすぐようにして飲み込みます。
また、顆粒剤は粒の表面がコーティングされているものもあるので、噛み砕かずに水などで飲み込みます。
経口液剤・シロップ剤

経口液剤は、液状で内服用のものです。
固形製剤よりも飲み込みやすい上に、すでに有効成分が液中に溶けているので、服用後は比較的、素速く体に吸収されるという特徴があります。
また、有効成分の血中濃度が上昇しやすいため、習慣性や依存性がある成分が配合されているものの場合、本来の目的と異なる不適正な使用がなされることがあります。
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経口液剤では苦味やにおいが強く感じられることがあるので、小児に用いる場合、白糖などの糖類を混ぜたシロップ剤とすることが多くなっています。
カプセル剤
カプセル剤は、カプセル内に散剤や顆粒剤、液剤などを充填したもので、内服用の医薬品として広く使用されています。
固形の製剤なので、その特徴は錠剤とほぼ同じですが、カプセルの原材料として広く用いられているゼラチンはブタなどのタンパク質を主成分としているため、ゼラチンに対してアレルギーを持つ人は使用を避ける必要があります。
また、水なしで服用すると、ゼラチンが喉や食道に貼り付くことがあるため、必ず適量の水(又はぬるま湯)と服用しましょう。
外用局所に適用する剤形
軟膏剤やクリーム剤、外用液剤、貼付剤、スプレー剤などがあります。
軟膏剤・クリーム剤

基剤の違いにより、軟膏剤とクリーム剤に大別されます。
有効成分が適用部位に留まりやすいという特徴があります。
一般的には、適用する部位の状態に応じて、軟膏剤は、油性の基材で皮膚への刺激が弱く、適用部位を水から遮断したい場合等に用い、患部が乾燥していてもじゅくじゅくと浸潤していても使用できます。
また、クリーム剤は、油性基剤に水分を加えたもので、患部を水で洗い流したい場合等に用られますが、皮膚への刺激が強いため傷などへの使用は避ける必要があります。
☝️界面活性剤を加えて、油と水の成分を混合する「乳化」を行ったものがクリーム剤です。(これは試験には出ません)
外用液剤

外用液剤は外用の液状製剤で、軟膏剤やクリーム剤に比べて、患部が乾きやすいという特徴があります。
また、適用部位に直接的な刺激感などを与える場合がある。
貼付剤

貼付剤は皮膚に貼り付けて使用するもので、絆創膏や湿布薬のようなテープ剤及びパップ剤があります。
適用部位に有効成分が一定時間留まるため、効果が持続する反面、適用部位にかぶれなどを起こす場合もあります。
スプレー剤

スプレー剤は有効成分を霧状にするなどして、局所に吹き付けるものです。
手指などでは塗りにくい部位や広範囲に使用する場合に適しています。
まとめ
いかがでしょうか。
今回は「登録販売者試験 第2章・薬の生体内運命」について解説しました。
受験生のみなさん、テキストなどでインプットをしたら、直後に過去問を解くアウトプットで記憶が少しずつ定着します。
是非、合格目指して頑張りましょう!
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