【分かりやすさNo 1】第1章「医薬品概論」解説(令和4年3月)

登録販売者試験解説
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医薬品概論

医薬品の本質

医薬品は多くの場合、人体に取り込まれて作用し、効果を発現させるものです。

しかし、本来、医薬品も人体にとっては異物(外来物)であり、医薬品が人体に及ぼす作用は 複雑、かつ、多岐に渡りそのすべては解明されていないため、必ずしも期待される有益な効果 (薬効)のみをもたらすとは限らず好ましくない反応(副作用)を生じる場合もあります。

これは人体に対して使用されない医薬品についても同じことが言えます。

例えば、殺虫剤の中には誤って人体がそれに曝されれば健康を害するおそれがあるものもありますし、検査薬は検査結果について正しい解釈や判断がなされなければ、医療機関を受診して適切な治療を受ける機会を失うおそれがあるなど、人の健康に影響を与えるものもあります。

検査薬例「妊娠検査薬」

医薬品は、「人の疾病の診断治療若しくは予防に使用されること、又は人の身体の構造機能に影響を及ぼすことを目的とする生命関連製品でありその有用性が認められたもの」ですが、 使用にはこのような保健衛生上のリスクを伴うものであることに注意が必要です。

このことは、医療用医薬品と比較すればリスクは相対的に低いと考えられる一般用医薬品であっても同様で、科学的な根拠に基づく適切な理解や判断によって適正な使用が図られる必要です。

医薬品は、「効能効果」「用法用量」「副作用」等の必要な情報が適切に伝達されることを通じて、購入者等が適切に使用することにより初めてその役割を十分に発揮するものであり、そうした情報を伴わなければ、単なる薬物(有効成分を含有する化学物質)に過ぎません。

このため、一般用医薬品には製品に添付されている文書(添付文書)や製品表示に必要な情報が記載されています。

一般用医薬品は一般の生活者が自ら選択し使用するものですが、一般の生活者においては、添付文書や製品表示に記載された内容を見ただけでは効能効果や副作用等について誤解認識不足を生じることもあります。

分かりにくい…😅

購入者等が一般用医薬品を適切に選択し適正に使用するためには、その販売に専門家が関与し専門用語を分かりやすい表現で伝えるなどの適切な情報提供を行い、購入者等が知りたい情報を十分に得ることができるように相談に対応することが不可欠です。

また、医薬品は市販後にも医学・薬学等の新たな知見、使用成績等に基づき、その有効性や安全性等の確認が行われる仕組みになっており、それらの結果を踏まえて「リスク区分の見直し」「承認基準の見直し」等がなされます。

また「販売時の取扱い、製品の成分分量、効能効果、用法用量、使用上の注意」等が変更となった場合には、それが添付文書や製品表示の記載に反映されます。

医薬品は、このような知見の積み重ねや使用成績の結果等によって有効性や安全性等に関する情報が集積されており、随時新たな情報が付加されるものです。

一般用医薬品の販売に従事する専門家においては、これらに円滑に対応できるよう常に新しい情報の把握に努める必要があります。

このほか、医薬品は人の生命や健康に密接に関連するものであるため、高い水準均一な品質が保証されていなければいけません。

医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号。以下「法」という)では、健康被害の発生の可能性の有無にかかわらず、「異物等の混入」「変質」等がある医薬品を販売等してはならない旨を定めており、 医薬品の販売等を行う者においても、そのようなことがないよう注意するとともに、製造販売業者による製品回収等の措置がなされることもあるので製造販売業者等からの情報に日頃から留意しておくことが重要です。

一般用医薬品として販売される製品は、製造物責任法(平成6年法律第85号。以下PL法という)の対象でもあります。

pL法

PL法は「製造物の欠陥により、人の生命、身体、財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任」について定めており、販売した一般用医薬品に明らかな欠陥があった場合などはPL法の対象となりえることも理解しておく必要があります。

医薬品のリスク評価

医薬品は使用方法を誤ると健康被害を生じることがあります。

医薬品の効果とリスクは、用量作用強度の関係(用量-反応関係)に基づいて評価されます。

投与量と効果又は毒性の関係は、薬物用量の増加に伴って効果の発現が検出されない無作用量から、最小有効量を経て治療量に至ります。

治療量上限を超えると、やがて効果よりも有害反応が強く発現する中毒量となり、最小致死量を経て、致死量に至ります。

動物実験により求められる50%致死量(LD50)は、薬物の毒性の指標として用いられます。

治療量を超えた量を単回投与した後に、毒性が発現するおそれが高いことは当然ですが、少量の投与でも長期投与されれば、慢性的な毒性が発現する場合もあります。

また、少量の医薬品の投与でも「発がん作用、胎児毒性や組織・臓器の機能不全」を生じる場合もあります。

このような考えから、新規に開発される医薬品のリスク評価は、医薬品開発の国際的な標準化(ハーモナイゼーション)制定の流れのなかで、個々の医薬品の用量-反応関係に基づいて医薬品の安全性に関する非臨床試験の基準である

「Good Laboratory Practice(GLP)」

の他に、医薬品毒性試験法ガイドラインに沿って

  1. 単回投与毒性試験
  2. 反復投与毒性試験
  3. 生殖・発生毒性試験
  4. 遺伝毒性試験
  5. がん原性試験
  6. 依存性試験
  7. 抗原性試験
  8. 局所刺激性試験
  9. 皮膚感作性試験
  10. 皮膚光感作性試験

などの毒性試験が厳格に実施されています。

動物実験で医薬品の安全性が確認されるとヒトを対象とした臨床試験が行われます。

ヒトを対象とした臨床試験の実施の基準には国際的に

「Good Clinical Practice (GCP)

が制定されており、これに準拠した手順で安全な治療量を設定することがg新規医薬品の開発に関連する臨床試験 (治験)の目標の一つです。

さらに、医薬品に対しては製造販売後の調査及び試験の実施の基準として

「Good Post-marketing Study Practice (GPSP) 」

と製造販売後安全管理の基準として

「Good Vigilance Practice (GVP)」

が制定されています。

このように、医薬品は食品などよりもはるかに厳しい安全性基準が要求されているのである。

健康食品

昔から薬(医)食同源という言葉があるように、古くから特定の食品摂取と健康増進の関連は関心を持たれてきました。

特に近年では食品やその成分についての健康増進効果の情報がメディア等を通して大量に発信され消費者の関心も高いと言えます。

健康増進や維持の助けになることが期待されるいわゆる「健康食品」はあくまで食品であり医薬品とは法律上区別されます。

しかしながら、健康食品の中でも国が示す要件を満たす食品「保健機能食品」は一定の基準のもと健康増進の効果等を表示することが許可された健康食品です。

「保健機能食品」には現在、以下の3種類があります。

特定保健用食品

「特定保健用食品」は、身体の生理機能などに影響を与える保健機能成分を含むもので、個別に(一部は規格基準に従って)特定の保健機能を示す有効性や安全性などに関する国の審査を受け、許可されたものです。

栄養機能食品

「栄養機能食品」は、身体の健全な成長や発達、健康維持に必要な栄養成分(ビタミン、ミネラルなど)の補給を目的としたもので、国が定めた規格基準に適合したものであれば、その栄養成分の健康機能を表示できます。

機能性表示食品

「機能性表示食品」は、事業者の責任で科学的根拠をもとに疾病に罹患していない者の健康維持及び増進に役立つ機能を商品のパッケージに表示するものとして国に届出された商品であるが、 特定保健用食品とは異なり「国の個別の許可を受けたもの」ではありません。

健康食品

いわゆる健康食品はその多くが摂取しやすいように錠剤やカプセル等の医薬品に類似した形状で販売されています。

健康食品においても誤った使用方法や個々の体質により健康被害を生じた例も報告されています。

また、医薬品との相互作用で薬物治療の妨げになることもあります。

健康食品は、食品であるため「摂取しても安全で害が無い」かのようなイメージを強調したものも見られますが、法的にもまた安全性や効果を担保する科学的データの面でも医薬品とは異なることを十分理解しておく必要があります。

一般用医薬品の販売時にも健康食品の摂取の有無について確認することは重要で、購入者等の健康に関する意識を尊重しつつも、必要があればそれらの摂取についての指導も行うべきです。

セルフメディケーションへの積極的な貢献

急速に少子高齢化が進む中、持続可能な医療医療制度の構築に向け、医療費の増加やその国民負担の増大を解決し、健康寿命を伸ばすことが日本の大きな課題です。

セルフメディケーションの推進はその課題を解決する重要な活動のひとつであり、地域住民の健康相談を受けて一般用医薬品の販売や必要な時は医療機関の受診を勧める業務はその推進に欠かせません。

セルフメディケーションを的確に推進するためにも一般用医薬品の販売等を行う登録販売者は、一般用医薬品等に関する正確で最新の知識を常に修得するよう心がけるとともに、薬剤師や医師、看護師など地域医療を支える医療スタッフあるいは行政などとも連携をとって、地域住民の健康維持・ 増進、生活の質(QOL)の改善・向上などに携わることが望まれます。

少子高齢化の進む社会では、地域包括ケアシステムなどに代表されるように自分や家族、近隣住民、専門家、行政など全 ての人たちで協力し個々の住民の健康を維持・増進していくことが求められます。

医薬品の販売等に従事する専門家はその中でも重要な情報提供者であり、薬物療法の指導者となることを常に意識して活動することが求められます。

また、平成29年1月からは適切な健康管理の下で医療用医薬品からの代替を進める観点から、条件を満たした場合にスイッチOTC医薬品の購入の対価について、一定の金額をその年分の総所得金額等から控除するセルフメディケーション税制が導入され、令和4年1月の見直しにより、スイッチOTC医薬品以外にも腰痛や肩こり、風邪やアレルギーの諸症状に対応する一般用医薬品が税制の対象となっています。

※)世界保健機関(WHO:World Health Organization)によれば、セルフメディケーションとは、「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」とされています。

※)一般用医薬品は、カウンター越しに(OTC(Over The Counter))販売等されることからOTC医薬品と呼ばれ、このうち、医師等の診断、処方箋に基づき使用されていた医療用医薬品を薬局や店舗販売業などで購入できるように転用(スイッ チ)した医薬品を「スイッチOTC医薬品」といいという

医薬品の効き目や安全性に影響を与える要因

副作用

世界保健機関(WHO)の定義によれば、医薬品の副作用とは、

疾病の予防、診断、治療のため、又は身体の機能を正常化するために、人に通常用いられる量で発現する医薬品の有害かつ意図しない反応」

とされています。

医薬品の副作用は、発生原因の観点から次のように大別することができます。

薬理作用による副作用

医薬品の有効成分である薬物が生体の生理機能に影響を与えることを薬理作用といいます。

通常、薬物は複数の薬理作用を併せ持つため医薬品を使用した場合には期待される有益な反応(主作用)以外の反応が現れることがあります。

また、主作用以外の反応であっても、特段の不都合を生じないものであれば、通常、副作用として扱われることはありませんが好ましくないものについては一般に副作用といいます。

複数の疾病を有する人の場合、ある疾病のために使用された医薬品の作用がその疾病に対して薬効をもたらす一方、別の疾病に対しては症状を悪化させたり治療が妨げられたりすることもあります。

アレルギー(過敏反応)

免疫は本来なら細菌やウイルスなどが人体に取り込まれたとき、人体を防御するために生じる反応ですが、免疫機構が過敏に反応して好ましくない症状が引き起こされることがあります。

通常の免疫反応の場合、炎症やそれに伴って発生する痛み、発熱等は人体にとって有害なものを体内から排除するための必要な過程ですが、アレルギーにおいては過剰に組織に刺激を与える場合も多く、引き起こされた炎症自体が過度に苦痛を与えることになります。

このように、アレルギーにより体の各部位に生じる炎症等の反応を「アレルギー症状」といい流涙目のかゆみ等の結膜炎症状鼻汁くしゃみ等の鼻炎症状蕁麻疹湿疹かぶれ等の皮膚症状血管性浮腫のようなやや広い範囲にわたる腫れ等が生じることが多いです。

※)血管性浮腫は皮膚の下の毛細血管が拡張して、その部分に局所的な腫れを生じるもので、蕁麻疹と異なり、痒みを生じることは少ない。

アレルギーは一般的にあらゆる物質によって起こり得るものであるため、医薬品の薬理作用等とは関係なく起こり得るもので、内服薬だけでなく外用薬等でも引き起こされることがあります。

さらに、医薬品の有効成分だけでなく基本的に薬理作用がない添加物もアレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)となり得えます。

アレルゲンとなり得る添加物としては

  • 黄色4号(タートラジン)
  • カゼイン
  • 亜硫酸塩(亜硫酸ナトリウム、ピロ硫酸カリウム等

等が知られています。

普段は医薬品にアレルギーを起こしたことがない人でも、病気等に対する抵抗力が低下している状態などの場合には医薬品がアレルゲンになることで思わぬアレルギーを生じることがあります。

また、アレルギーには体質的・遺伝的な要素もあり「アレルギーを起こしやすい体質の人や近い親族にアレルギー体質の人がいる」場合には注意が必要です。

医薬品を使用してアレルギーを起こしたことがある人は、その原因となった医薬品の使用を避ける必要があります。

また、医薬品の中には、鶏卵牛乳等を原材料として作られているものがあるため、それらに対するアレルギーがある人では使用を避けなければならない場合もあります。

副作用は眠気口渇等の比較的よく見られるものから、日常生活に支障を来す程度の健康被害を生じる重大なものまで様々ですがどのような副作用であれ起きないことが望ましいと言えます。

そのため、副作用が起きる仕組みや起こしやすい要因の認識、それらに影響を与える体質や体調等をあらかじめ把握し、「適切な医薬品の選択」と「適正な使用」が図られることが重要です。

しかし、医薬品が人体に及ぼす作用はすべてが解明されているわけではないため、「十分注意して適正に使用された場合」であっても副作用が生じることがあります。

そのため、医薬品を使用する人が副作用をその初期段階で認識することにより、副作用の種類に応じて速やかに適切に処置、対応し、重篤化の回避が図られることが重要となります。

また、一般用医薬品は、軽度な疾病に伴う症状の改善等を図るためのものであり一般の生活者が自らの判断で使用するものです。

通常はその使用を中断することによる不利益よりも、重大な副作用を回避することが優先され、その兆候が現れたときには基本的に使用を中止することとされており、必要に応じて医師、薬剤師などに相談がなされるべきです。

一般用医薬品の販売等に従事する専門家においては購入者等から副作用の発生の経過を十分に聴いて、その後の適切な医薬品の選択に資する情報提供を行うほか、副作用の状況次第では購入者等に対して速やかに適切な医療機関を受診するよう勧奨する必要があります。

また、副作用は、容易に異変を自覚できるものばかりでなく、血液や内臓機能への影響等のように明確な自覚症状として現れないこともあるので、継続して使用する場合には特段の異常が感じられなくても医療機関を受診するように医薬品の販売等に従事する専門家から促していくことも重要です。

不適正な使用と副作用

医薬品は保健衛生上のリスクを伴うものであり、疾病の種類や症状等に応じて適切な医薬品が選択され、適正な使用がなされなければ症状の悪化や副作用、事故等の好ましくない結果を招く危険性が高くなります。

一般用医薬品の場合はその使用を判断する主体が一般の生活者であることから、その適正な使用を図っていく上で販売時における専門家の関与が特に重要です。

医薬品の不適正な使用は、概ね以下の2つに大別することができます。

【1】使用する人の誤解や認識不足に起因する不適正な使用

一般用医薬品は購入者等の誤解や認識不足のために適正に使用されないことがあります。

例えば、

「選択された医薬品が適切ではなく症状が改善しないまま使用し続けている」

「症状の原因となっている疾病の根本的な治療や生活習慣の改善等がなされないまま手軽に入手できる一般用医薬品を使用して症状を一時的に緩和するだけの対処を漫然と続けている」

ような場合には、いたずらに副作用を招く危険性が増すばかりでなく適切な治療の機会を失うことにもつながりやすいでしょう。

また、「薬はよく効けば良い」「多く飲めば速く効く」等と短絡的に考えて定められた用量を超える量を服用したり、小児への使用を避けるべき医 薬品を「子供だから大人のものを半分飲ませれば良い」として服用させるなど、安易に医薬品を使用するような場合には特に副作用につながる危険性が高いと言えます。

このほか人体に直接使用されない医薬品についても、使用する人の誤解や認識不足によって使い方や判断を誤りれば副作用につながることがあります。

また、使用量は指示どおりであっても便秘や不眠、頭痛など不快な症状が続くために長期にわたり一般用医薬品をほぼ毎日連用(常習)する事例も見られます。

便秘薬や総合感冒薬、解熱鎮痛薬などはその時の不快な症状を抑えるための医薬品であり、長期連用すれば、その症状を抑えていることで重篤な疾患の発見が遅れたり、肝臓腎臓などの医薬品を代謝する器官を傷めたりする可能性もあります。

このほか、長期連用により精神的な依存がおこり使用量が増えたり、購入するための経済的な負担も大きくなる例も見られます。

このような誤解や認識不足による不適正な使用やそれに起因する副作用の発生の防止を図るには、医薬品の販売等に従事する専門家が購入者等に対して正しい情報を適切に伝えていくことが重要となります。

購入者等が医薬品を使用する前に添付文書や製品表示を必ず読むなどの適切な行動がとられ、その適正な使用が図られるよう、購入者等の理解力や医薬品を使用する状況等に即して説明がなされるべきです。

【2】医薬品を本来の目的以外の意図で使用する不適正な使用

医薬品はその目的とする効果に対して副作用が生じる危険性が最小限となるよう使用する量や使い方が定められています。

医薬品を「本来の目的以外」の意図で定められた用量を意図的に超えて服用したり、みだりに他の医薬品や酒類等と一緒に摂取するといった乱用がなされると、過量摂取による急性中毒等を生じる危険性が高くなったり、乱用の繰り返しによって慢性的な臓器生涯等を生じるおそれもあります。

一般用医薬品にも習慣性・依存性がある成分を含んでいるものがあり、そうした医薬品がしばしば乱用されることが知られています。

特に、青少年は薬物乱用の危険性に関する認識や理解が必ずしも十分でなく、好奇心から身近に入手できる薬物を興味本位で乱用することがあるので注意が必要です。

適正な使用がなされる限りは安全かつ有効な医薬品であっても、乱用された場合には薬物依存を生じることがあり、一度薬物依存が形成されるとそこから離脱することは容易でありません。

「状況によっては販売を差し控える」などの対応が図られることが望ましいでしょう。

他の医薬品や食品との相互作用、飲み合わせ


複数の医薬品を併用した場合、又は保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品及び機能性表示食品)や、いわゆる健康食品を含む特定の食品と一緒に摂取した場合に、医薬品の作用が増強したり、減弱したりすることを相互作用と言います。

作用が増強すれば作用が強く出過ぎたり、副作用が発生しやすくなります。

また、作用が減弱すれば十分な効果が得られないなどの不都合を生じます。

相互作用には

  • 医薬品が吸収、分布、代謝(体内で化学的に変化すること)又は排泄される過程で起こるもの
  • 医薬品が薬理作用をもたらす部位において起こるもの

があります。

相互作用を回避するには、ある医薬品を使用している期間やその前後を通じてその医薬品との相互作用を生じるおそれのある医薬品や食品の摂取を控えなければならないのが通常です。

他の医薬品との成分の重複・相互作用

一般用医薬品は一つの医薬品の中に作用の異なる複数の成分を組み合わせて含んでいることが多く、他の医薬品と併用した場合に同様な作用を持つ成分が重複することがあるので、作用が強く出過ぎたり副作用を招く危険性が増すことがあります。

例えば、かぜ薬、解熱鎮痛薬、鎮静薬、鎮咳去痰薬、アレルギー用薬等では成分や作用が重複することが多く、通常これらの薬効群に属する医薬品の併用は避けることとされています。

相互作用による副作用のリスクを減らす観点から、緩和を図りたい症状が明確である場合には、なるべくその症状にあった成分のみが配合された医薬品が選択されることが望ましいと言えます。

複数の疾病を有する人では、疾病ごとにそれぞれ医薬品が使用される場合が多く、医薬品同士の相互作用に関して特に注意が必要となります。

医療機関で治療を受けている場合には、通常は、その治療が優先されることが望ましく、一般用医薬品を併用しても問題ないかどうかについては治療を行っている医師若しくは歯科医師、又は処方された医薬品を調剤する薬剤師に確認する必要があります。

一般用医薬品の販売等に従事する専門家においては購入者等に対し、医薬品の種類や使用する人の状態等に即して情報提供を行い、医療機関・薬局から交付された薬剤を使用している場合には、診療を行った医師若しくは歯科医師又は調剤した薬 剤師に相談するよう説明がなされるべきです。

食品との飲み合わせ

食品と医薬品の相互作用は、しばしば「飲み合わせ」と表現され、食品と飲み薬が体内で相互作用を生じる場合が主に想定されます。

例えば、酒類(アルコール)は、医薬品の吸収や代謝に影響を与えることがあります。

アルコールは、主として肝臓で代謝されるため、酒類(アルコール)をよく摂取する者では肝臓の代謝機能が高まっていることが多いと言われています。

その結果、肝臓で代謝されるアセトアミノフェンなどでは、通常よりも「代謝されやすく」なり、体内から医薬品が早く消失してくですぎたり十分な薬効が得られなくなることがあります。

また、代謝によって産生する物質(代謝産物)に薬効があるものの場合には、作用が逆に強く出過ぎたり、代謝産物が人体に悪影響を及ぼす医薬品の場合は副作用が現れやすくなります。

このほか、カフェインやビタミンA等のように、食品中に医薬品の成分と同じ物質が存在するために、それらを含む医薬品(例:総合感冒薬)と食品(例:コーヒー)を一緒に服用すると過剰摂取となるものもあります。

また、生薬成分等については医薬品的な効能効果が標榜又暗示されていなければ食品(ハーブ等)として流通可能なものもあり、そうした食品を合わせて摂取すると、生薬成分が配合された医薬品の効き目や副作用を増強させることがあります。

シナモンは桂皮という生薬でもあります。

また外用薬や注射薬であっても食品によって医薬品の作用や代謝に影響を受ける可能性があります。

小児、高齢者等への配慮

小児、高齢者等が医薬品を使用する場合においては、保健衛生上のリスク等に関して成人と別に考える必要があります。

小児

医療用医薬品の添付文書等の記載要領の留意事項」(平成29年6月8日付け薬生安発0 608第1号厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長通知別添)において、新生児、乳児、 幼児、小児という場合には、おおよその目安として、次の年齢区分が用いられています。

  • 新生児:生後4週未満
  • 乳児:生後4週以上、1歳未満
  • 幼児:1歳以上、7歳未満
  • 小児:7歳以上、15歳未満

ただし、一般的に15歳未満を小児とすることもあり、具体的な年齢が明らかな場合は、 医薬品の使用上の注意においては3歳未満の小児等と表現される場合があります。

小児は医薬品を受けつける生理機能が未発達であるため、その使用に際して特に配慮が必要です。

例えば、小児は大人と比べて身体の大きさに対して腸が長く、服用した医薬品の吸収率が相対的に高い

また、血液脳関門が未発達であるため、吸収されて循環血液中に移行した医薬品の成分が脳に達しやすく、中枢神経系に影響を与える医薬品で副作用を起こしやすい。

加えて、肝臓や腎臓の機能が未発達であるため、医薬品の成分の代謝・排泄に時間がかかり、作用が「強く出過ぎたり」、「副作用がより強く出る」ことがあります。

医薬品の販売に従事する専門家においては、小児に対して使用した場合に副作用等が発生する危険性が高まり、安全性の観点から小児への使用を避けることとされている医薬品の販売等に際しては、購入者等から状況を聞いて、想定される使用者の把握に努めるなど、積極的な情報収集とそれに基づく情報提供が重要となります。

また、保護者等に対して、成人用の医薬品の量を減らして小児へ与えるような安易な使用は避け、必ず年齢に応じた用法用量が定められているものを使用するよう説明がなされることも重要です。

医薬品によっては、形状等が小児向けに作られていないため小児に対して使用しないことなどの注意を促している場合もあります。

例えば、錠剤、カプセル剤等は小児、特に乳児にそのまま飲み下させることが難しいことが多い。

このため、5歳未満の幼児に使用される錠剤やカプセル剤などの医薬品では、服用時に喉につかえやすいので注意するよう添付文書に記載されています。

医薬品が喉につかえると、大事に至らなくても咳き込んで吐き出し苦しむことになり、その体験から乳幼児に医薬品の服用に対する拒否意識を生じさせることがあります。

乳児向けの用法用量が設定されている医薬品であっても乳児は医薬品の影響を受けやすく、また、状態が急変しやすく一般用医薬品の使用の適否が見極めにくいため、基本的には医師の診療を受けることが優先され、一般用医薬品による対処は最小限(夜間等、医師の診療を受けることが困難な場合)にとどめるのが望ましいと言えます。

また、一般に乳幼児は、容態が変化した場合に、自分の体調を適切に伝えることが難しいため、医薬品を使用した後は、保 護者等が乳幼児の状態をよく観察することが重要です。

何か変わった兆候が現れたときには早めに医療機関に連れて行き、医師の診察を受けさせることが望ましいでしょう。

乳幼児が誤って薬を大量に飲み込んだ、又は目に入れてしまったなどの誤飲、誤用事故の場合には、通常の使用状況から著しく異なるため想定しがたい事態につながるおそれがあります。

このような場合には、一般用医薬品であっても高度に専門的判断が必要となることが多いので、応急処置等について関係機関の専門家に相談し、又は様子がおかしいようであれば、医療機関に連れて行くなどの対応がなされることが必要です。

なお、小児の誤飲・誤用事故を未然に防止するには、家庭内において、小児が容易に手に取れる場所や、小児の目につく場所に医薬品を置かないようにすることが重要です。

高齢者

医療用医薬品の添付文書等の記載要領の留意事項」(平成29年6月8日付け薬生安発0608第1号厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課長通知別添)は、おおよその目安として65歳以上を「高齢者」としています。

一般に高齢者は生理機能が衰えつつあり、特に、肝臓や腎臓の機能が低下していると医薬品の作用が強く現れやすく、若年時と比べて副作用を生じるリスクが高くなります。

しかし、高齢者であっても基礎体力や生理機能の衰えの度合いは個人差が大きく、年齢のみから一概にどの程度リスクが増大しているかを判断することは難しいと言えます。

一般用医薬品の販売等に際しては、実際にその医薬品を使用する高齢者の個々の状況に即して、適切に情報提供や相談対応がなされることが重要です。

また、高齢者は生理機能の衰えのほか、喉の筋肉が衰えて飲食物を飲み込む力が弱まている(嚥下障害)場合があり内服薬を使用する際に喉に詰まらせやすい。

さらに、医薬品の副作用で口渇を生じることがあり、その場合は誤嚥(食べ物等が誤って気管に入り込むこと)を誘発しやすくなるので注意が必要です。

加えて、高齢者は、持病(基礎疾患)を抱えていることが多く、一般用医薬品の使用によって基礎疾患の症状が悪化したり、治療の妨げとなる場合があるほか、複数の医薬品が長期 間にわたって使用される場合には副作用を生じるリスクも高い。

このほか、高齢者によくみられる傾向として、医薬品の説明を理解するのに時間がかかる場合や、細かい文字が見えづらく、添付文書や製品表示の記載を読み取るのが難しい場合等があり、情報提供や相談対応において特段の配慮が必要となります。

また、高齢者では、手先の衰えのため医薬品を容器や包装から取り出すことが難しい場合や、医薬品の取り違えや飲み忘れを起こしやすいなどの傾向もあり、家族や周囲の人(介護関係者等)の理解や協力も含 めて、医薬品の安全使用の観点からの配慮が重要となることがあります。

妊婦又は妊娠していると思われる女性

妊婦は、体の変調や不調を起こしやすいため、一般用医薬品を使用することにより、症状の緩和等を図ろうとする場合もあるが、その際には妊婦の状態を通じて胎児に影響を及ぼすことがないよう配慮する必要があり、そもそも一般用医薬品による対処が適当かどうかを含めて慎重に考慮されるべきであります。

胎児は、誕生するまでの間は母体との間に存在する胎盤を通じて栄養分を受け取っています。

胎盤には、胎児の血液と母体の血液とが混ざらない仕組み(血液-胎盤関門)があります。

母体が医薬品を使用した場合に、血液-胎盤関門によって、どの程度医薬品の成分の胎児への移行が防御されるかは未解明のことも多い。

一般用医薬品においても多くの場合、妊婦が 使用した場合における安全性に関する評価が困難であるため、妊婦の使用については「相談すること」としているものが多い。

さらに、ビタミンA含有製剤のように妊娠前後の一定期間に通常の用量を超えて摂取すると胎児に先天異常を起こす危険性が高まるとされているものや、便秘薬のように配合成分やその用量によっては流産早産を誘発するおそれがあるものがあります。

このような医薬品 については、十分注意して適正に使用するか、又は使用そのものを避ける必要があり、その販売等に際しては購入者等から状況を聞いて想定される使用者の把握に努めるなど、積極的な情報収集とそれに基づく情報提供がなされることが重要となります。

なお、妊娠の有無やその可能性については、購入者等にとって他人に知られたくない場合もあることから、一般用医薬品の販売等において専門家が情報提供や相談対応を行う際には十分に配慮することが必要です。

母乳を与える女性(授乳婦)

医薬品の種類によっては、授乳婦が使用した医薬品の成分の一部が乳汁中に移行することが知られており、母乳を介して乳児が医薬品の成分を摂取することになる場合があります。

このような場合、乳幼児に好ましくない影響が及ぶことが知られている医薬品については、授乳期間中の使用を避けるか、使用後しばらくの間は授乳を避けることができるよう、医薬品の 販売等に従事する専門家から購入者等に対して、積極的な情報提供がなされる必要があります。

吸収された医薬品の一部が乳汁中に移行することが知られていても、通常の使用の範囲では具体的な悪影響は判明していないものもあり、購入者等から相談があったときには、乳汁に移行する成分やその作用等について適切な説明がなされる必要があります。

医療機関で治療を受けている人等

近年、生活習慣病等の慢性疾患を持ちながら日常生活を送る生活者が多くなっています。

疾患の種類や程度によっては一般用医薬品を使用することでその症状が悪化したり、治療が妨げられることもあります。

購入しようとする医薬品を使用することが想定される人が医療機関で治療を受けている場合には、疾患の程度やその医薬品の種類等に応じて、問題を生じるおそれがあれば使用を避けることができるよう情報提供がなされることが重要であり、必要に応じ、いわゆるお薬手帳を活用する必要があります。

なお、医療機関・薬局で交付された薬剤を使用している人については、登録販売者において一般用医薬品との併用の可否を判断することは困難なことが多く、 その薬剤を処方した医師若しくは歯科医師又は調剤を行った薬剤師に相談するよう説明する必要があります。

過去に医療機関で治療を受けていた(今は治療を受けていない)という場合には、どのような疾患について、いつ頃かかっていたのか(いつ頃治癒したのか)を踏まえ、購入者等が使用の可否を適切に判断することができるよう情報提供がなされることが重要です。

また、医療機関で治療を受ける際には、使用している一般用医薬品の情報を医療機関の医師や薬局の薬剤師等に伝えるよう購入者等に説明することも重要です。

医療機関での治療は特に受けていない場合であっても、医薬品の種類や配合成分等によっては特定の症状がある人が使用するとその症状を悪化させるおそれがある等、注意が必要なものがあります。

プラセボ効果

医薬品を使用したとき、結果的又は偶発的に薬理作用によらない作用を生じることをプラセボ効果(偽薬効果)と言います。

プラセボ効果は、医薬品を使用したこと自体による楽観的な結果への期待(暗示効果)や、条件付けによる生体反応、時間経過による自然発生的な変化(自然緩解など)等が関与して生じると考えられています。

医薬品を使用したときにもたらされる反応や変化には、薬理作用によるもののほか、プラセボ効果によるものも含まれています。

プラセボ効果によってもたらされる反応や変化にも、望ましいもの(効果)と不都合なもの(副作用)とがあります。

プラセボ効果は、主観的な変化だけでなく、客観的に測定可能な変化として現れることもありますが、不確実であり、それを目的として医薬品が使用されるべきではありません。

購入者等が、適切な医薬品の選択、医療機関の受診機会を失うことのないよう、正確な情報が適切に伝えられることが重要です。

医薬品の品質

医薬品は、高い水準で均一な品質が保証されていなければならないが、配合されている成分(有効成分及び添加物成分)には、高温や多湿、光(紫外線)等によって品質の劣化(変質・変敗)を 起こしやすいものが多く、適切な保管・陳列がなされなければ、医薬品の効き目が低下したり、 人体に好ましくない作用をもたらす物質を生じることがあります。

医薬品が保管・陳列される場所については、清潔性が保たれるとともに、その品質が十分保持 される環境となるよう(高温、多湿、直射日光等の下に置かれることのないよう)留意される必要があります。

また、医薬品は適切な保管・陳列がなされたとしても経時変化による品質の劣化は避けられない。

一般用医薬品では、薬局又は店舗販売業において購入された後すぐに使用されるとは 限らず、家庭における常備薬として購入されることも多いことから、外箱等に記載されている使用期限から十分な余裕をもって販売等がなされることも重要です。

なお、表示されている「使用期限」は、未開封状態で保管された場合に品質が保持される期限 であり、液剤などではいったん開封されると記載されている期日まで品質が保証されない場合がある。

適切な医薬品選択と受診勧奨

一般用医薬品で対処可能な症状等の範囲 一般用医薬品は、法において「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択 により使用されることが目的とされているもの(要指導医薬品を除く。)」(第4条第5項第4号) と定義されている。

その役割としては

  1. 軽度な疾病に伴う症状の改善
  2. 生活習慣病などの疾病に伴う症状発現の予防(科学的・合理的に効果が期待できるものに限る。)
  3. 生活の質(QOL)の改善・ 向上、
  4. 健康状態の自己検査
  5. 健康の維持・増進
  6. その他保健衛生

の6つがあり、医療機関での治療を受けるほどではない体調不良や疾病の初期段階、あるいは日常において、生活者が自らの疾病の治療、予防又は生活の質の改善・向上を図ることを目的としている。

近年、急速な高齢化の進展や生活習慣病の増加など疾病構造の変化、生活の質の向上への要請等に伴い、自分自身の健康に対する関心が高い生活者が多くなっている。

そのような中で、専門家による適切なアドバイスの下、身近にある一般用医薬品を利用する「セルフメディケーション」 の考え方がみられるようになってきています。

セルフメディケーションの主役は一般の生活者であり、一般用医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対して常に科学的な根拠に 基づいた正確な情報提供を行い、セルフメディケーションを適切に支援していくことが期待されています。

したがって、情報提供は必ずしも医薬品の販売に結びつけるのでなく、医療機関の受診を勧めたり(受診勧奨)、医薬品の使用によらない対処を勧めることが適切な場合があることにも留意する必要があります。

症状が重いとき(例えば高熱や激しい腹痛がある、患部が広範囲である場合など)に、一般用医薬品を使用することは一般用医薬品の役割にかんがみて適切な対処とはいえません。

体調不良や軽度の症状等について一般用医薬品を使用して対処した場合であっても一定期間若しくは一定回数使用しても症状の改善がみられない又は悪化したときには、医療機関を受診して医
師の診療を受ける必要です。

なお、一般用医薬品で対処可能な範囲は、医薬品を使用する人によって変わってくるものであり、例えば、乳幼児や妊婦等では、通常の成人の場合に比べその範囲は限られてくることにも留意される必要があります。

また、スポーツ競技者については、医薬品使用においてドーピングに注意が必要です。

一般用医薬品にも使用すればドーピングに該当する成分を含んだものがあるため、スポーツ競技者か ら相談があった場合は、専門知識を有する薬剤師などへの確認が必要です。

販売時のコミュニケーション

一般用医薬品は一般の生活者がその選択や使用を判断する主体であり、生活者が自らの健康上の問題等について一般用医薬品を利用して改善を図ろうとすること、すなわち生活者のセルフメディケーションに対して、登録販売者は第二類医薬品及び第三類医薬品の販売、情報提供等を担う観点から、支援していくという姿勢で臨むことが基本となります。

医薬品の適正な使用のため必要な情報は、基本的に添付文書や製品表示に記載されていますが、それらの記載は一般的・網羅的な内容となっているため、個々の購入者や使用者にとって、どの記載内容が当てはまり、どの注意書きに特に留意すべきなのか等について適切に理解することは必ずしも容易でなく十分に目を通さずに医薬品が使用されるおそれもあります。

また、購入者等があらかじめ購入する医薬品を決めていることも多いが、使う人の体質や症状等にあった製品を事前に調べて選択しているのではなく、宣伝広告や販売価格等に基づいて漠然と選択していることも少なくありません。

医薬品の販売に従事する専門家においては、購入者等が、自分自身や家族の健康に対する責任感を持ち、適切な医薬品を選択して適正に使用するよう働きかけていくことが重要です。

専門家からの情報提供は、単に専門用語を分かりやすい平易な表現で説明するだけでなく、説明
した内容が購入者等にどう理解され、行動に反映されているかなどの実情を把握しながら行うことによりその実効性が高まるものです。

購入者等が適切な医薬品を選択し、実際にその医薬品を使用する人が必要な注意を払って適正に使用していくためには、医薬品の販売に従事する専門家が、可能な限り購入者等の個々の状況の把握に努めることが重要です。

一般用医薬品の場合、必ずしも情報提供を受けた当人が医薬品を使用するとは限らないことを踏まえ、販売時のコミュニケーションを考える必要があります。

医薬品の販売等に従事する専門家が購入者等から確認しておきたい基本的なポイントとしては、次のような事項が挙げられます。

  1. 何のためにその医薬品を購入しようとしているか(購入者等のニーズ、購入の動機)
  2. 2その医薬品を使用するのは情報提供を受けている当人か、又はその家族等が想定されるか
  3. その医薬品を使用する人として、小児や高齢者、妊婦等が想定されるか
  4. その医薬品を使用する人が医療機関で治療を受けていないか
  5. その医薬品を使用する人が過去にアレルギーや医薬品による副作用等の経験があるか
  6. その医薬品を使用する人が相互作用や飲み合わせで問題を生じるおそれのある他の医薬品の使用や食品の摂取をしていないか

なお、第一類医薬品を販売する場合は、3~5の事項を販売する薬剤師が確認しなければならず、第二類医薬品を販売する場合は、3~5の事項を販売する薬剤師又は登録販売者が確認するよう努めなければいけません。

さらに、一般用医薬品はすぐに使用する必要に迫られて購入されるとは限らず、家庭における常備薬として購入されることも多いことから、その販売等に従事する専門家においては、以下の点に関して把握に努めることが望ましでしょう。

症状等がある場合、それはいつ頃からか、その原因や患部等の特定はなされているか、こうした購入者側の状況を把握するには、医薬品の販売等に従事する専門家から購入者等に尋ねることが少なくありません。

そのため、会話しやすい雰囲気づくりに努め、購入者等が健康への高い関心を有する生活者として参加意識を持って、医薬品を使用する状況等について自らの意志で伝えてもらえるよう促していくことが重要です。

しかし、購入者自身が何を期待して医薬品を購入するのか漠然としている場合もあり、また、 購入者側に情報提供を受けようとする意識が乏しく、コミュニケーションが成立しがたい場合もあります。

医薬品の販売等に従事する専門家は、そうした場合であっても購入者側から医薬品の使 用状況に係る情報をできる限り引き出し、可能な情報提供を行っていくためのコミュニケーション技術を身につけるべきです。

例えば、情報提供を受ける購入者等が医薬品を使用する本人で、 かつ、現に症状等がある場合には、言葉によるコミュニケーションから得られる情報のほか、そ の人の状態や様子全般から得られる情報も状況把握につながる重要な手がかりとなります。

また、購入者等が医薬品を使用する状況は随時変化する可能性があるため、販売数量は一時期に使用する必要量とする等、販売時のコミュニケーションの機会が継続的に確保されるよう配慮することも重要です。

薬害の歴史

医薬品による副作用等に対する基本的考え方

医薬品は人体にとって本来異物であり治療上の効能・効果とともに何らかの有害な作用(副作用)等が生じることは避けがたいものです。

副作用は、眠気、口渇等の比較的よく見られる
ものから、死亡や日常生活に支障を来すほどの重大なものまで、その程度は様々ですが、それまでの使用経験を通じて知られているもののみならず、科学的に解明されていない未知のものが生じる場合もあり、医薬品の副作用被害やいわゆる薬害は、医薬品が「十分注意して使用されたとしても」起こり得るものです。

このように医薬品が「諸刃の剣」であることを踏まえ、医薬品の販売に従事する専門家を含め、 関係者が医薬品の安全性の確保に最善の努力を重ねていくことが重要です。

医薬品による副作用等にかかる主な訴訟

サリドマイド訴訟

催眠鎮静剤等として販売されたサリドマイド製剤妊娠している女性が使用したことにより、出生児に「四肢欠損、耳の障害等の先天異常(サリドマイド胎芽症)」が発生したことに対する損害賠償訴訟である。

1963年6月に製薬企業を被告として、さらに翌年12月には 及び製薬企業を被告として提訴され、1974年10月に和解が成立した。

サリドマイドは催眠鎮静成分として承認された(その鎮静作用を目的として、胃腸薬にも配合された)が、副作用として血管新生を妨げる作用もありました。

妊娠している女性が摂取した場合、サリドマイドは血液-胎盤関門を通過して胎児に移行します。

胎児はその成長の過程で諸器官の形成のため細胞分裂が活発に行われますが、血管新生が妨げられると細胞分裂が正常に行われず器官が充分人成長しないことから、「四肢欠損、視聴覚等の感覚器や心肺機能の 障害等の先天異常」が発生します。

なお、血管新生を妨げる作用はサリドマイドの光学異性体のうち、一方の異性体(S体)のみが有する作用で、もう一方の異性体(R体)にはなく、また鎮静作用はR体のみが有するとされています。

サリドマイドが摂取されると、R体とS体は体内で相互に転換するため、R体のサリドマイドを分離して製剤化しても催奇形性は避けられない。

サリドマイド製剤は、1957年に西ドイツ(当時)で販売が開始され、日本では1958年1月から販売されていました。

1961年11月、西ドイツのレンツ博士がサリドマイド製剤の催奇形性について警告を発し西ドイツでは製品が回収されるに至った。

一方、日本では同年12月に西ドイツ企業から勧告が届いており、かつ翌年になってからもその企業から警告が発せられていたにもかかわらず、出荷停止は1962年5月まで行われず、販売停止及び回収措置は同年9月であるなど対応の遅さが問題視されました。

サリドマイドによる薬害事件は、日本のみならず世界的にも問題となったため、WHO加盟国を中心に「市販後の副作用情報の収集の重要性」が改めて認識され、各国における(副作用情報の収集体制の整備」が図られることとなりました。

スモン訴訟

整腸剤として販売されていたキノホルム製剤を使用したことにより、「亜急性脊髄視神経症 (英名 Subacute Myelo-Optico-Neuropathy の頭文字をとってスモンと呼ばれる)」に罹患したことに対する損害賠償訴訟である。

スモンは初期には「腹部の膨満感から激しい腹痛を伴う下痢」を生じ、次第に「下半身の痺れや脱力、歩行困難」などが現れます。

麻痺は上半身にも拡がる場合があり、ときに視覚障害から失明に至ることもある。

キノホルム製剤は1958年頃から消化器症状を伴う特異な神経症状が報告されるようになり、米国では1960年にアメーバ赤痢への使用に限ることが勧告されました。

日本では1970年8月になってスモンの原因はキノホルムであるとの説が発表され、同年9月に販売が停止されました。

1971年5月に及び製薬企業を被告として提訴され、被告である国はスモン患者の早期救済のためには和解による解決が望ましいとの基本方針に立って、1977年10月に東京地裁において和解が成立して以来、各地の地裁及び高裁において和解が勧められ1979年9月に全面和解が成立しました。

スモン患者に対する施策や救済制度として

  • 治療研究施設の整備
  • 治療法の開発調査研究の推進
  • 施術費及び医療費の自己負担分の公費負担
  • 世帯厚生資金貸付による生活資金の貸付
  • 重症患者に対する介護事業

が講じられています。

サリドマイド訴訟、スモン訴訟を契機として、1979年、医薬品の副作用による健康被害の迅速な救済を図るため、医薬品副作用被害救済制度が創設されました。

HIV訴訟

血友病患者がヒト免疫不全ウィルス(HIV)が混入した原料血漿から製造された血液凝固因子製剤の投与を受けたことによりHIVに感染したことに対する損害賠償訴訟です。

及び製薬企業を被告として1989年5月に大阪地裁、同年10月に東京地裁で提訴されました。

大阪地裁、東京地裁は、1995年10月、1996年3月にそれぞれ和解勧告を行い、1996年3月に両地裁で和解が成立しました。

和解確認書において、(厚生大臣(当時))は、「我が国における血友病患者のHIV感 染という悲惨な被害を拡大させたことについて指摘された重大な責任を深く自覚、反省して、原告らを含む感染被害者に物心両面にわたり甚大な被害を被らせるに至ったことにつき、深く衷心よりお詫びする」とともに、「サリドマイド、キノホルムの医薬品副作用被害に関する訴訟の和解による解決に当たり、前後2回にわたり、薬害の再発を防止するため最善の努力 をすることを確約したにもかかわらず、再び本件のような医薬品による悲惨な被害を発生さ せるに至ったことを深く反省し、その原因についての真相の究明に一層努めるとともに、安 全かつ有効な医薬品を国民に供給し、医薬品の副作用や不良医薬品から国民の生命、健康を守るべき重大な責務があることを改めて深く認識し、薬事法上医薬品の安全性確保のため厚生大臣に付与された各種権限を十分活用して、本件のような医薬品による悲惨な被害を再び 発生させることがないよう、最善、最大の努力を重ねることを改めて確約する」としています。

本訴訟の和解を踏まえ、国は、HIV感染者に対する恒久対策として、エイズ治療・研究開発センター及び拠点病院の整備や治療薬の早期提供等の様々な取り組みを推進してきています。

また、1999年8月24日には、厚生大臣が出席し、関係患者団体等を招いて「誓いの碑」の 竣工式が行われた。

「誓いの碑」には、「命の尊さを心に刻みサリドマイド、スモン、HIV感染のような医薬品による悲惨な被害を再び発生させることのないよう医薬品の安全性・有効性の確保に最善の努力を重ねていくことをここに銘記する千数百名もの感染者を
出した『薬害エイズ』事件 このような事件の発生を反省しこの碑を建立した 平成11年8月 厚生省」と刻まれている。

HIV感染者に対する恒久対策のほか、医薬品の副作用等による健康被害の再発防止に向けた取り組みも進められ、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(当時)との連携による承認審査体制の充実、製薬企業に対し従来の副作用報告に加えて感染症報告の義務づけ、緊急に必要とされる医薬品を迅速に供給するための「緊急輸入」制度の創設等を内容とする改正薬事法が1996年に成立し、翌年4月に施行されました。

また、血液製剤の安全確保対策おして検査や献血時の問診の充実が図られるとともに、薬事行政組織の再編、情報公開の推進、健康危機管理体制の確立等がなされました。

CJD訴訟


脳外科手術等に用いられていたヒト乾燥硬膜を介して「クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)」に罹患したことに対する損害賠償訴訟である。

CJDは、細菌でもウイルスでもないタンパク質の一種であるプリオンが原因とされ、プリオンがの組織に感染し、次第に認知症に類似した症状が現れ、に至る重篤な神経難病です。

ヒト乾燥硬膜の原料が採取された段階でプリオンに汚染されている場合があり、「プリオン不活化のための十分な化学的処理」が行われないまま製品として流通し、脳外科手術で移植された患者にCJDが発生しました。

輸入販売店業者及び製造業者を被告として、1996年11月に大津地裁、1997年9月に東京地裁で提訴されました。

大津地裁、東京地裁は2001年11月に和解勧告を行い、2002年3月に両地裁で和解が成立した。

本訴訟の和解に際して、(厚生労働大臣)は、「生物由来の医薬品」などによるHIVやCJDの感染被害が多発したことにかんがみ、こうした医薬品等の安全性を確保するため必要な規制の強化を行うとともに、生物由来の医薬品等による被害の救済制度を早期に創設できるよう努めることを誓約し、2002年に行われた薬事法改正に伴い

  • 生物由来製品の安全対策強化
  • 独立行政法人医薬品医療機器総合機構による生物由来製品による感染等被害救済制度の創設

等がなされました。

これらのほか

  • CJD患者の入院対策・在宅対策の充実
  • CJDの 診断・治療法の研究開発
  • CJDに関する正しい知識の普及・啓発
  • 患者家族・遺族に対す る相談事業等に対する支援
  • CJD症例情報の把握
  • ヒト乾燥硬膜の移植の有無を確認するための患者診療録の長期保存等の措置

が講じられるようになりました。

C型肝炎訴訟

出産や手術での大量出血などの際に特定のフィブリン製剤血液凝固第IX因子製剤の投与を受けたことにより、C型肝炎ウイルスに感染したことに対する損害賠償訴訟です。

及び製薬企業を被告として、2002年から2007年にかけ、5つの地裁で提訴されましたが、2006年から2007年にかけて言い渡された5つの判決は、国及び製薬企業が責任を負うべき期間等について判断が分かれていました。

このような中、C型肝炎ウイルス感染者の早期・一律救済の要請にこたえるべく、議員立法によってその解決を図るため、2008年1月に特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法(平成20年法律第2号)が制定、施行されました。

国ではこの法律に基づく給付金の支給の仕組みに沿って、現在和解を進めています。

また、「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」(平成22年4 月28日薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会)を受け、 医師、薬剤師、法律家、薬害被害者などの委員により構成される医薬品等行政評価・監視委 員会が設置されました。

サリドマイド製剤、キノホルム製剤については、過去に一般用医薬品として販売されていたこともあり、一般用医薬品の販売等に従事する者(登録販売者など)においては、薬害事件の歴史を十分に理解し、医薬品の副作用等による健康被害の拡大防止に関して、製薬企業や国だけでなく、医薬品の情報提供、副作用報告等を通じて、その責務の一端を担っていることを肝に銘じておく必要があります。

まとめ

第1章は得点を稼げる章です。

その理由は2つあります。

1つ目は、第1章は「登録販売者試験問題作成の手引き」全402ページ中、わずか17ページ(4.2%)しかなく、その中から20問出題されるからです。

2つ目が、例年、どの各都道府県でも「一般常識でも正解出来る問題」が出題されることがあるからです。

ですので、しっかりとポイントを押さえれば20点満点も狙える章なんです。

ここでより多くの得点を稼いで合格を手に入れましょう!


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